工藤監督と理事長 「ハリー&ハニー福祉基金対談」
2015年03月17日更新
プロ野球観戦で子どもに夢と感動を
西日本スポーツ創刊60周年記念
「ハリー&ハニー福祉基金対談」
詳報
工藤公康
福岡ソフトバンクホークス監督
多田昭重
西日本新聞民生事業団理事長
野球観戦の機会が少ない福祉施設の子どもたちを福岡ヤフオクドームに招待しようという、社会福祉法人西日本新聞民生事業団と西日本新聞社による「ハリー&ハニー福祉基金」。これまでに延べ2万7千人の子どもたちがドーム球場に足を運び、福岡ソフトバンクホークスの試合を通して、夢と感動を実感しています。子どもたちの喜びの声は感想文、感想画として民生事業団に数多く寄せられるほどです。そのホークスは日本シリーズ連覇を狙い、新監督に工藤公康氏を迎えました。工藤氏は少年野球の指導などに長年携わり、その活動は広く知られています。工藤監督と西日本新聞民生事業団の多田昭重理事長が「子どもと野球」をテーマに語り合いました。
◎延べ2万7000人が観戦
多田 西日本新聞民生事業団は西日本新聞社の社会福祉事業部門として1950年4月、社団法人として認可されました。プロ野球を観戦する機会が少ない児童福祉施設の子どもたちをヤフオクドームのホークス戦に招待する「ハリー&ハニー福祉基金」は2004年、王貞治・福岡ソフトバンクホークス球団会長(当時福岡ダイエー監督)にも呼び掛け人になってもらってスタートしました。私たちは、この感動と喜びをもっと盛り上げようと思っています。
工藤 本当に素晴らしい試みだと思います。野球はテレビで見るのと球場で観戦するのとでは大違い。生で味わうプレーの迫力、球場のワクワク感を、1人でも多くの子どもたちに体感してほしいと願っています。
多田 工藤監督は長年、少年野球の指導にも携わっていますね。東日本大震災の慰問を兼ねて東北地方も頻繁に訪れていらっしゃるとか。
工藤 「二十一世紀倶楽部」(注1)の誘いで、少年野球を指導しています。20年以上になります。21世紀を担う子どもたちが野球をやらないと野球が衰退します。
多田 東日本大震災の慰問を兼ねた東北地方も頻繁に訪れていらっしゃるとか。
工藤 現役引退の時に東日本大震災があり、何かできないかと考え、ある新聞社を通じて少年野球教室を行ったり、カツカレーを作ってあげたりしています。(震災の影響で)子どもが暗くなると、親や大人も暗くなります。1日でもいいから子どもに笑顔を取り戻させようとの思いで始めました。もう100回以上やっています。
※注1 21世紀の人材づくりを目的に1987年に設立された、個人会員を中心とした団体。野球では、工藤監督のほか、水野雄仁(元巨人)下柳剛(元阪神)小久保裕紀(元ソフトバンク)の元選手らが「夢の課外授業」をしている。ゴルフの丸山茂樹さん、サッカーの北沢豪さんも先生。
◎子どもは野球界の宝。けがをしないで野球を楽しんでほしい。
多田 引退後は、野球教室の指導とともに「正しいトレーニング」の重要性なども伝えていますね。
工藤 活動する中で、ひじや肩に故障を抱える子どもたちが多いと聞きました。私が子どもたちに野球を教える際、基本にあるのは「野球を楽しんでやってほしい」ということです。だから「壊れてほしくない」「痛めてほしくない」。8~12歳はゴールデンエージと言われ、運動能力が一番伸びる時期です。その時期に運動していない、と大人になってちょっと転んだだけでも骨折することがあります。子どもにとって運動は大事なことだということをもっと広げていきたいのです。
多田 監督自身、中学の時に左ひじを痛め、投球練習をやめてストレッチに専念した経験がありますね。現役時代は体調管理に熱心だった。それが、筑波大大学院人間総合科学研究科で「外科系スポーツ医学」を学ぶことにつながったのですね。
工藤 子どもたちの能力は潜在的に非常に高いものがあります。それまでできなかったことも指導すれば、数カ月もすると、できるようになります。練習する場所や生でスポーツを見る機会が減っていることが、子どもたちをスポーツから遠ざける原因にもなっていると思います。子どもの可能性を広げるためには大人のフォローが必要です。大人に知識を持てという前に自分自身が勉強しないと、ということで勉強を始めました。
子どもを対象にした「ひじ・肩検診」は、各地で徐々に広がっています。私が考えているのは、九州全ての県で「ひじ・肩検診」が行われ、優秀なアスリートを輩出する、そして、検診の重要性が他の地域にも広がることです。そんな情報や活動をプロ側から発信することは、有意義なことだと思います。野球界にとって野球をやってくれる子どもは宝です。彼らがやらなくなったら野球界はなくなります。けがをなくして、大人が子どもたちに夢を見させてあげないといけないと思います。
◎人としてのマナー習得も重要
多田 当事業団は60年前から、福祉施設の子どもたちの「九州地区児童福祉施設球技大会」を開催しています。男子は軟式野球、女子はバレーボール。毎年、九州各県持ち回りで開催しています。一生懸命にプレーしている子どもたちの姿に感動を覚えると同時に「先輩たちよ、よくぞこの企画を始めてくれた!」と感謝しています。今年の夏は第61回を宮崎で開催します。 「ハリー&ハニー福祉基金」では、多くの子どもたちにヤフオクドームでプロ野球を観戦してほしいですし、私たちは、この感動と喜びをもっと広げ、盛り上げようと思っています。
工藤 スポーツを見て感動する。それが原動力となり、自分なりの目標を達成するために努力や我慢をする。そして、仲間意識の大切さを学ぶ。スポーツは心も豊かにしてくれるのです。スポーツは病気に対抗できる強い体を作ることができます。
やりたくてもやれない、見に行きたくても行けない子どもたちがいると皆が知って、そんな子たちに夢を与えるのは大人なんだと分かってほしい。野球を知らない子がプロ野球を見て、必ずしも野球をやりたいと思わなくていい。自分も一つのことに頑張ろう、そう思ってくれるだけで価値があると考えます。
多田 監督は技術やプレーだけではなく、人としてのマナーも指導していますね。「ガムをかむな」「つばを吐くな」など選手に言っていると聞きます。これは一般の人に対する影響も大きいのです。新聞には、「野球は好きだが、ガムをかんでいる選手の姿は何とかならないか」という母親の投書もあります。
工藤 社会人であれば当然のことだと思います。本人は自己主張のつもりで髪を染めているのでしょうが「自己主張は野球でしろ」、ガムをかむとリラックスできるなどと言いますが「野球は緊張してやるものだ。リラックスしてやるものじゃない」と言っています(笑)。
多田 感動を呼ぶプレーの一方で、つばを吐いたりする姿は良いイメージではありませんよね。
工藤 私もプロ1年目に根本陸夫さん(元西武、福岡ダイエー監督、ダイエー球団社長)に、「プロ野球選手として一人前になる前に社会人として一人前になれ」と説諭されたことを今も覚えています。その後も、王さんや広岡達朗さん(元西武監督)など良い教えをいただいたと思っています。私の宝物です。
◎愛されるホークス球団と「ハリー&ハニー福祉基金」
多田 ダイエーの社長だった中内㓛さんに「なぜこんなに福岡に投資するのか」と聞いたことがあります。中内さんは「福岡を他人事とは思っていない。ホークス球団は単に応援する対象ではない。私自身の喜びであり、生きがいだ」と言っていました。だからホークスは市民に愛されているのです。
民生事業団や「ハリー&ハニー福祉基金」の活動もいろんな人が応援してくれています。ある大手チェーンのうどん店さんは、うどん1玉の売上金の一部を民生事業団に寄付してくれています。そういう応援のおかげで子どもたちが球場に足を運ぶことができています。
ところで、久しぶりの福岡です。いかがですか。
工藤 ホークス球団は本当に市民に愛されていると感じますね。正直言うと、ホークスの5年間(1995~99年、注2)は選手時代の中で一番きつかった時代なのです。私自身も変わらなければと、チームメートとともに悩んだ時代で、それぞれに努力しました。その中で、王さんの野球に対する熱い思いやファンを大切にする心などを学びました。それが選手たちに染み込んで、栄養になって花開いたのが99年の優勝だと思います。やって良かったと思える5年間でした。
そして、今回、戻って来ました。これからは、強いチームであり続けられるように頑張ります。それが王さんやチーム、そして福岡に対する恩返しだと思っています。子どもたちをはじめファンの皆さんには、野球を見て、感動してくれて、自分も頑張ろうと思ってくれたら(私たちが)野球をやる価値はあると思います。選手たちも、見てくれて、そう思ってもらえるからこそ燃えるのです。
※注2 当時のホークスには、秋山幸二前監督や小久保裕紀日本代表監督、城島健司元選手らプロ野球を代表する選手が在籍していた。
◎今年も優勝、喜びを2倍3倍に
多田 常勝球団として成長するホークスは、福岡に熱い思いを持つ工藤さんを監督に迎えました。そして西スポも創刊60周年。今年は、九州・福岡が新たに変わるチャンスになると思います。ドーム球場の子どもたちの予約観覧席数はピーク時、年間29席でしたが、年々寄付金が少なくなり、昨年は13席でした。私たちの努力不足も実感しています。今年は「ハリー&ハニー福祉基金」の活動も原点に戻って、さらに盛り上げていきます。
工藤 子どもたちがもっともっと生のプロ野球を見られるように、読者の皆さんにご協力をお願いしたいと、私からも呼び掛けさせていただきます。子供たちの感動が2倍3倍になるように、私たちも強いチームであり続け、V2を実現できるように頑張ります。
工藤 公康・福岡ソフトバンクホークス監督
くどう・きみやす 1963年生まれ。名古屋電気高(現愛工大名電高)卒業後、西武に入団。94年オフにFAで福岡ダイエーへ移籍。その後、巨人、横浜などを経て2011年引退。通算224勝。最優秀投手2回、最優秀防御率4回、最高勝率投手4回、最多奪三振2回、ベストナイン3回、ゴールデングラブ賞3回、正力松太郎賞など多数のタイトルを獲得。今季から福岡ソフトバンクホークス監督。
多田 昭重・西日本新聞民生事業団理事長
ただ・あきしげ 1957年早稲田大学卒業後、西日本新聞社入社。東京支社長、常務取締役、専務取締役、代表取締役社長、代表取締役会長を歴任。現在は顧問。2011年6月から西日本新聞民生事業団理事長。
「ハリー&ハニー福祉基金」へのメッセージ
福岡ソフトバンクホークス会長
王 貞 治
西日本新聞民生事業団の事業の一つである「ハリー&ハニー福祉基金」は、私がホークスの監督であった2004年にスタートし、今年で12年目を迎えることになりました。
私は小学生のころから野球に親しんできましたが、そこには必ず野球ができる場所をつくってくれたり、野球を教えてくれたり、面倒を見てくれるおじさんたちがいました。また、プロ野球の試合を観戦しに(巨人のホームグラウンドだった東京の)後楽園球場に連れて行ってくれる人たちがいました。
今度は私たち大人が、多くの子どもたちに野球ができる場所をつくってあげる、教えてあげる、そしてまた、観戦する機会を提供する、そんな役割を果たす番です。
プロ野球を生で観戦する機会が少ない児童福祉施設の子どもたちに、ヤフオクドームでのホークス戦に招待するこの基金は、多くの皆さんの善意によって支えられてきました。11年間で2万7000人もの子どもたちを招待してきた事業を、これからも続けていけるよう、皆さんのご理解、ご支援をよろしくお願いいたします。
西日本新聞民生事業団
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